アニメ映画『この世界の片隅に』感想 原作は先に読んだ方がいい
2016年11月25日、テアトル新宿にて13時の回の『この世界の片隅に』を観賞してきました。後半、周囲からの嗚咽が止まらなくなり、画面とのギャップが凄まじい衝撃作でしたので、記します。
『この世界の片隅に』とは
漫画を原作にした、終戦直前の呉を描いたヒューマンドラマです。
公式サイトによると、主演はあの『あまちゃん』の能年玲奈ことのんさん
。 監督には片渕須直。『BLACK LAGOON』 『マイマイ新子と千年の魔法』の監督で、『魔法少女隊アルス』の脚本演出など。原作はこうの史代。見事な文化庁メディア芸術祭打線です。
興味深いのは、制作費としてクラウドファンディングを使用してる点。数千人のサポーターからの支援は、SNS上でもかなり濃厚なものでした。
公式サイト:
あらすじ
18歳のすずさんに、突然縁談がもちあがる。
1944年2月、すずさんは呉へとお嫁にやって来る。呉はそのころ日本海軍の一大拠点で、軍港の街として栄え、世界最大の戦艦と謳われた「大和」も呉を母港としていた。見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんの日々が始まった。
(中略)1945年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの数の艦載機による空襲にさらされ、すずさんが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。
そして、昭和20年の夏がやってくる――。(公式サイトより)
PV
11時頃にチケットを買いに行った段階ですでに8割方埋まっており、3列目を購入。ただ、テアトル新宿はスクリーン前にステージがあるのでかなり前の方が見易いです。
ともあれ、いざ入場してみると満員+立ち見の完売状態。この日は終日こんな感じのようでした。
年齢層はかなりバラけており、30~50代が多かった印象。60代以上もかなりいました。
男女比半々くらい。
とにかく声を大にして言いたいのは、
原作を先に読んでおくことを強くオススメします!!
映画では描ききれなかった箇所が多いのがまずひとつ。
漫画の情報が映像によってスッと整理されるのが二つ目。
あとは、是非事前情報なしで原作を読み、その妙な恐怖感を味わって欲しいというのが3つめ。
漫画をかなり忠実に再現し、つなぎのシーンを補完
漫画では描ききれなかった細かな動きや描写が見事に映像として再現されています。
原作自体も比較的動きの多い作品でしたが、映像化されることでより生き生きとした映画に感じられます。
さらに、アニメ的表現も原作の雰囲気に忠実なのが見逃せません。個人的には海の描写が素晴らしいと思いました。
のんさんが凄い
漫画の再現度も去ることながら、主演ののんさんのすずの演技がかなりイケてました。いわゆる大物女優による声優初体験的な演技は大抵「んんん〜」な感じですが、今回のすず役のんは、『REDLINE』の蒼井優並にハマっていた感があります。マジなのか何なのかわからない、とにかくよくわからないけど凄い感じが遺憾なく発揮されています。
コトリンゴが強力
コトリンゴと言えばJ-WAVEで坂本龍一が事あるごとに言及しまくっていて、そこはかとない寵愛を受けていたような音楽家ですが、今回のこの作品では極めてコトリンゴ色が強いサウンドを感じることができます。
音楽的な天才であるコトリンゴの楽曲を聞くためだけでも、この作品を見る価値がありそうです。今後さらにアニメ映画でのコトリンゴ起用が増えそう。
様々なアニメ表現、全く異なるテイストの絵
ド深夜にやっているようなマイナーアニメや、実験色の強いOVAや単館系アニメに見られるような特殊な映像演出が散りばめられており、映像面でも見応えがあります。
例えば、日常パートはいわゆる王道的な「日常系」デフォルメされた絵柄ですが、呉の日常・自然と完全に対をなす米軍機などはハイクオリティなCGで描かれています。
エフェクトも同様に、日常シーンではやわらか演出が光りますが、戦争シーンでは非常に鋭いリアリスティックな演出で驚かされます。
かと思えば印象派を思わせる色彩の爆発が見られたりと、とにかくアキないです。
加えて、この作品は現実・非現実がすずの主観・思考の元に描かれ溶け合っています。
ともすれば訳がわからない意味不明な自体に陥りがちな描き方ですが、この作品では不思議と嫌味が全くありません。
もしかしたら今までの第2次大戦アニメで最もリアルかも
基本的にはすずの視点が捉えた世界を映し出す作品です。
色々みんな大変なんだなあ、というのを体現した世界。
とにかく主人公すずの性格が全て、な映画なんでしょう。
想像を覆す突然の作品の豹変などは一切ないので、ある意味安心して見ることが出来ました。しかし、もし劇場で鑑賞し、となりに80台のおばあちゃんが居たら色々考えざるを得ない作品です。そういう意味では、劇場で鑑賞するのが良いかもしれません。
作品を通して貫かれる無常観・諦観の念は必見です。
珠玉のザ・昭和19年アニメと言うことができるでしょう。
ここからネタバレ〜〜
やはり後半になるにつれ、見ていて非常に辛くなる。
原作でも終戦が近づくにつれ悲壮感・終末感がどんどん強くなりますが、映画ではより強くそれを感じます。
終戦の玉音放送が一つのピークですが、最も心に刺さるのが、やはり広島の孤児のシーン。
コトリンゴの諦観的な歌声の効果もあり、非常にエモいシーケンスが数分。ここは第2次大戦アニメ映画でも屈指のシーンではないでしょうか。座ったまま亡くなった母親の躯が崩れる描写が凄まじいですね。これは見ていて厳しかった。
逆に、水原さんが生存していたシーンでは救いを感じます。厳しい眼で海を睨む水原さんがいて、少し安心。
逆にすずさん達がたくましく生きようとするカットが、辛いです。ほぼエンドロール直前なので、この作品で今まで見てきたモノがフラッシュバックし、すずさんはあまりにも多くのものを失ったと認識せざるを得ません。
青葉
サウンドのちからが凄い
漫画ではどうしてもほんわかイメージがあったお陰で音か軽く感じられましたが、映画のサウンドエフェクトは非常にリアルです。機銃や爆弾、砲撃の大音量系はかなり鋭く、ジブリ系よりもリアルに感じられます。
また、ラジオやサイレンの音も執拗に用いられており、心理的圧迫感がありました。
原作でももちろん嫌というほど空襲警報がなり続け、ノイローゼ気味になっていく様が描かれていますが、映像ではサイレンの音と米軍機のプロペラ音が合わさり非常な恐怖感を演出。これが短いながらも良く表現されています。もし、この空襲警報の地震速報バージョンだったらと考えると、多くの人がトラウマになってしまうかもしれません。
展開がとても分かり易い
原作ですが、正直少し読みづらいです。
が、映画化されると戦時中昭和ということもあり、世界はかなりシンプルで単純です。
結果、漫画の情報が整理され作品がかなり整理された気がします。
ということもあり、原作を先に読んだほうが良いなと思ったのでした。
漫画だと味気ない雑草刈り調理のシーンも、映像だと食指を誘う鮮やかさが際立つ。
カットされた箇所はそこそこある
原作
※ 画像はYoutubeから引用