K.T.C.C

映画とか洋ゲーの冒険記です。大体端書。

パリで年の瀬に夏目漱石の『坊っちゃん』を読んだら元気が出た話

マダム・ムシュー、ボンソワール。

 

この記事を書いている時間は14hですが、一応言っておきます。

世はクリスマスも終わり、あとは新年を待つのみといった感じで街中もバカンスの為人も少なく、何も用事が無ければ無為に時を過ごすだけのパリ滞在でございます。

ノエルなマルシェにも行きましたが韓国人と中国人だらけだし売られている品物は明らかに中国産のOEMだし、オランジーナ(とても旨い)は1缶3ユーロだし正気の人間が行く場所ではないでしょう。

 

かと言って、何もせず家に居ると鬱になってくるもの。『ローグ・ワン』でも見ようと映画館のHPを見ていると、新作『ブレードランナー』の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴの作品『メッセージ*1』が既に公開されているではありませんか。あのノッペリとした細長い石が草原にぶっ刺さってるあのポスターは強烈です。この作品、ゼロ年代最高のSF作家の1人と言われているテッド・チャン『あなたの人生の物語』の映像化作品だとか。読書しまくってた時期はグレッグ・イーガン全書読破に全力を投入していたので、テッド・チャンは全く読んだ事がありませんでした。日本公開は2017年なので、日本に先んじるために今すぐ観賞したかったのですが、いかんせん英語作品。一応原作を先に読んでおいた方が理解は間違いなくスムーズでしょう。

 

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というか、これは持論ですが、小説原作のSF作品は、間違いなく原作を先に読んでおいた方が映像を楽しめると思います。SF小説は必ずどこかが映像化の折に端折られるので、その差分を探すのもの楽しいですし。何よりも途方もないスケールのものが、どうやって映像化されるのかワクワク出来るのが最高じゃないですか。

 

ともかく、そんなわけでテッド・チャンの『あなたの人生の物語』をキンドルで購入。これが人生で初めての有料電子書籍購入になったのですが、ともかくこれが長い。最初の短編2本を読んだ辺りで飽きてきたので、自分の本棚を見てみると青空文庫の『坊っちゃん』を発見しました。昔タダでダウンロードしたものの、最初の数行がやはり昔っぽい文体でダメだこりゃと投げ出した物です。

 

とにかくやることがなく、かと言って折角花の都パリに居るのだから外に出ようにも寒しい何の下調べもしてないしで、ならば日本の大文学家の金字塔作品を読むほうが時間を有効に使っているといえるだろうと納得して読み始めた訳です。

 

そしたらこれがまた面白い面白い。古い表現やら当て漢字の違いなどなんのその、非常にシャキシャキしていてどんどん読める。こんなに読みやすいならもっと早く読んでおけば良かったと少し後悔するくらいでした。

 

『坊っちゃん』ワールドの季節も初秋と暖かそうで、読んでいてファッキンコールドなパリに居るのを忘れるくらいでした。特に温泉。パリ滞在期間=湯船に入らない期間となるこちらからすると毎日温泉に入れるのが本当に羨ましい限り。日本に返ったら絶対中型バイクの免許とって、愛媛は道後温泉に行こうと誓った瞬間でした。最近『ばくおん!!』見始めました。

 

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ファッキンコールド

 

100年経ってリバイバルもクソも、常に流行り続けている気がする漱石ですが、まあこれは流行るでしょう。流石に、やたらと「清が、清が」とばばあのことを思い出している主人公は気持ち悪いなと思いましたが、概ね主人公に賛同できた作品です。正解かは別にして、思い切りが良いほうが良いんです。四国でもロンドンでも、エイっと行ってしまえば良いんですよ。

 

小説が本当に面白いと感じる瞬間は、その全てが想像できるシーンに出会った時のような気がします。例えば、自分はSFが大好きですが、その全ては想像によって構成される事が多いです。『ダ・ヴィンチ・コード』などの現代サスペンスだと、ルーブル美術館とかパリの町並みの思い出補正が入りますが、テッド・チャン『バベルの塔』とかだと最早世界史の知識を頼りにシーンを想像するしかありません。これも池袋にある古代オリエント博物館*2とかの思い出を用いますが、かなり自主的に想像力を働かせないと情景を補えません。しかし、そのほうが面白く感じます。何故でしょう。完全に全く知らない世界ではなく、想像の手がかりになる情報は多くあった方が、さらに良さそうです。

 

それと同様に、今や最早遥か彼方の地の果の極東の島国のクソど田舎の100年前の話ともなると、微妙な塩梅で情報が想像を補い、なんだかトンデモない郷愁と憧憬を感じるわけですな、もし。これが所謂ホームシックかというと、出身は東京で代々木のことなど微塵も恋しくないので、また違うような気がしますが、「四国いきてぇなあぁぁ〜〜〜〜〜」となったのは間違いないです。そして少し元気が出ました。明日は外に出よう。

 

かの夏目漱石もロンドン留学時にはそのあまりの大気汚染の酷さにロンドンで引きこもりになったそうですが、ここパリも公共交通機関利用を促進するためにバス地下鉄がタダになるレベルの深刻な汚染度です。酸性雨でサクレ・クール*3がどす黒くなるのも時間の問題でしょう。たまーに2ストのバイクが走っている様な気がするのですが、その辺も影響しているのでしょう。

 

 

その気になれば何故かパリからだと安いJAL直行便で羽田まで7万、そっから2万もあれば24時間以内に四国に行けると思うのですが、折角なので青空文庫の他の「純文学」も読んでからにしようと思います。また何かあったら更新します。

 

 

坊っちゃん

坊っちゃん

 

 

 

あなたの人生の物語

あなたの人生の物語

 

 

*1:原題はArrivalでフランスでのタイトルはPremier Contact。訳が分からん

*2:

aom-tokyo.com

*3:

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La Basilique du Sacré Cœur de Montmartre